研究概要 |
網膜中心動静脈系は体外から直接目視できる唯一の中枢血管であり、生理的条件下で薬物に対する反応を観察することができる。今回、この血管系の薬理学的特性の詳細を明らかにすることを目的に、脳循環改善薬として臨床応用がなされてきたイブジラスト及びビンポセチンの作用検討を行った。また、ラット糖尿病モデルにおいて、糖尿病発症時の網膜血管反応性変化の可能性を明らかにするための実験を開始した。 【方法】実験にはWistar系雄性ラットを用いた。チオブタバルビタール(120mg/kg,i.p.)麻酔下、全身血圧、心拍数、腹部大動脈・総頚動脈血流量を測定した。CCDを装備した小動物用眼底カメラ(スカラー社製)を介して得た網膜の血管像をデジタル・ビデオテープに録画した。取得した映像をフレーム毎にパーソナル・コンピュータに取り込み、動静脈径の変化を測定した。また、ラットにストレプトゾトシン(80mg/kg,i.p.)を投与して、糖尿病モデルを作製した。 【結果】脳循環を改善する作用があるとされているイブジラスト及びビンポセチン(0.1〜1.0mg/kg,i.v.)は、何れも用量依存的な網膜細動静脈径の拡大と頚動脈血流量の増加を引き起こしたが、全身血圧には顕著な作用を示さなかった。これらのイブジラストの作用は、インドメタシン(5mg/kg,i.v.)またはN^G-nitro-L-arginine(30mg/kg,i.v.)前処置で大幅に抑制された。 【考察】脳循環改善に使用されてきた薬物が網膜血管を拡張させたことから、本研究法は、生理的条件下で、薬物の脳微小循環に対する作用を観察するうえで有用であることが改めて示された。また、まだ例数が少ないため今回は明確な記述は避けるが、糖尿病の進行に伴う網膜血管反応性の変化を示す成績が得られつつあり、今後の研究の進展が期待される。
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