機械受容チャネル(MSチャネル)は、機械刺激の受容分子として有力視されているが、その分子実体は未だ不明である。我々は最近、培養ウシ水晶体上皮細胞においてリゾホスファチジン酸(LPA)存在下に機械刺激により直径約数μmの局所から同心円上に[Ca^<2+>]_iが上昇する現象(Ca^<2+>spotと命名)を見いだした。そこで、その現象がMSチャネルからのCa^<2+>流入によるものであるかを検証する目的で、その時空的・薬理学的性質を検討した。 Ca^<2+>蛍光指示薬fluo-3あるいはfluo-4を負荷したウシ培養水晶体上皮細胞に、機械刺激として細胞の上方0.2mmに設置した内径0.5mmの流出口から垂直方向にで水流刺激を与え、発生するCa^<2+>spotsを高速共焦点スキャナーと高速CCDカメラを組み合わせた顕微鏡イメージングシステムを用いて、10〜20ミリ秒の高時間分解能で画像化した。このCa^<2+>spotsは、小胞体のCa^<2+>ポンプ阻害薬のタプシガルギンの影響を受けなかったが、MSチャネル阻害薬のCd^<3+>によってほぼ完全に抑制されたことから、MSチャネルからのCa^<2+>流入とその拡散によるものであることが示唆された。また、その時空的性格もこの結果を裏付けるものであった。さらに、対物レンズを高速光軸駆動装置で走査し、細胞の自由膜面側と接着膜面側の光学断層画像を交互にそれぞれ37.6ミリ秒の時間分解能で取得することに成功した。その結果、自由膜面側でより明確な[Ca^<2+>]_i上昇を示すものが多いことが明らかとなり、Ca^<2+>spotsは、主に機械刺激を直接受ける細胞の自由膜面に存在するMSチャネルからのCa^<2+>流入とその拡散を反映したものであることが示唆された。さらにこのCa^<2+>spotsの発生機構について検討し、抗インテグリンβ_1抗体に対する免疫反応性が本細胞の自由膜面に存在すること、インテグリンの細胞外基質のRGD認識部位に結合する阻害ペプチドのGRGDNPの前処置によりCa^<2+>spotsの発生密度が低下することから、インテグリンの接着能と共通したメカニズムがメカノセンサーとして機能した結果、活性化される経路を介したCa^<2+>流入現象であることが示唆された。これらの知見は、MSチャネルの分子実体及び関連する機能分子の検索に寄与するものと思われる。
|