研究概要 |
血管内皮細胞と膵癌細胞での抗血栓性因子の発現と癌細胞の浸潤能に関する本研究により以下の成績が得られた。 1.トロンボモジュリン(TM)と組織因子(TF),および外因系凝固経路インヒビター(TFPI)の抗体処理に伴う癌細胞浸潤活性の変化:BxPC-3膵癌細胞はTMのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体処理で浸潤能が上昇した。TFPI抗体では癌細胞の浸潤能に影響は現れなかったが,TF抗体の処理により、BxPC細胞の浸潤能が抑制された。従って,癌細胞に発現するTMとTFの両者は癌の浸潤活性に大きな影響を及ぼすことが判明した。 2.TMによる癌浸潤抑制機構の解析:BxPC-3細胞の浸潤活性を促進させたTMモノクローナル抗体の解析から,TMによる作用はプロテインC結合ドメインを介したものと推測されたが,活性化プロテインCおよび活性化プロテインCにより産生された凝固第Va因子の分解物にも癌浸潤抑制活性はなかった。従って,TMのプロテインC結合ドメインを介した細胞内シグナリングや別の基質を活性化することが浸潤抑制作用に重要であると推測された。 3.TFによる癌浸潤促進機構の解析:組織因子活性はBxPC-3細胞の浸潤能に対して促進的に働いたが,凝固第X因子や第Xa因子は浸潤能に影響せず,また抗第X因子抗体の処理でも浸潤活性に変化は現れなかった。第VIIa因子はBxPC-3細胞の浸潤能に対して促進的に作用し,抗第VII因子抗体の処理により組織因子によるBxPC-3細胞の浸潤促進作用は抑制された。従って,組織因子-第VIIa因子複合体の形成や組織因子と第VIIa因子による直接的な細胞内シグナル伝達が重要であると考えられた。 以上により,癌細胞だけでなく血管内皮細胞におけるTMとTFの発現を制御することで,特定の細胞外マトリックスを分解して浸潤する癌細胞の活動を抑制できることが判明した。今後,臨床への応用が可能と考えられた。
|