これまで、我々はヒト前立腺がん細胞(LN CaP)がホスホジエステラーゼ阻害剤のパパベリンとプロスタグランジン E2 の併用により神経内分泌様細胞に分化すること、またホルボールエステルのTPAが別の細胞株(TSU-Pr1)をミクロダリア様の形態に分化誘導することを見いだした。本年度の研究では主に、これら分化誘導過程における悪性度の変化と種々の遺伝子発現の変化について解析を進めた。その結果、LNCaPを用いた系については、分化誘導した細胞で軟寒天中でのコロニー形成能の減少や、マトリゲルに対する浸潤能の低下を検出し、分化誘導に伴い細胞の悪性度が減少していることがわかった。また種々の遺伝子の発現について解析を行い、がん遺伝子であるmycやBc1-2遺伝子の発現減少を検出した。さらに、ディファレンシャルディスプレイ法を用いて分化過程で発現変動する数種の遺伝子を同定した。TSU-Pr1細胞を用いた系では、分化誘導した細胞でミクログリア細胞のマーカであるエステラーゼ活性や、CD11b、LDLレセプターの発現を検出した。また、先述した系と同様に軟寒天コロニー形成能やマトリゲルに対する浸潤能の低下を検出し、分化誘導細胞の悪性度の減少を示した。遺伝子発現解析ではmyc、Bc1-2の発現減少やp21の発現誘導を検出した。 以上の結果よりこれら分化誘導細胞での悪性度の減少が確認され、分化誘導療法の臨床への応用の可能性が示唆された。また、分化誘導過程に関わる遺伝子についても解析を進めている段階である。今後はさらに詳細な分化誘導機構を解析し、より有効な新しい分化誘導物質の探索を行う予定である。
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