本研究では、前立腺がんの新しい治療法として分化誘導療法の応用を期待し、その基礎的検討を行った。まず、2種のヒト前立腺がん細胞(LNCaP、TSU-Pr1)について、種々の生理活性物質による分化誘導活性を検討した。その結果、LNCaP 細胞では、ホスホジエステラーゼ阻害剤のパパベリンとプロスタグランジンE_2の併用により神経内分泌様細胞に、TSU-Pr1細胞では、ホルボールエステルのTPAによりミクログリア様の細胞に、プロテインキナーゼ阻害剤のスタウロスポリンにより神経様細胞に分化誘導することが明らかとなった。またこれらの分化誘導した細胞では、軟寒天中でのコロニー形成能や、マトリゲル浸潤能といった細胞のがん化形質が低下していることが検出され、これらの分化誘導の臨床応用の可能性が示唆された。分化誘導機構の解析の一端として、増殖抑制機構についてTSU-Pr1細胞を中心に解析を行った結果、スタウロスポリンは CDKインヒビターであるp21、p27を発現誘導しG1期停止を起こしていることが示唆された。一方、TPAはp21を発現誘導しG1、G2期停止を起こしていることが示唆された。また、このTPAによるp21の発現誘導がPKC、MAPK経路を介していることや、このシグナル経路が増殖のみならず、分化形質にも関与していることが示唆された。さらに、ディファレンシャルディスプレイ法を用いて分化過程で発現変動する数種の遺伝子を同定した。以上の結果より、これら分化誘導細胞の悪性度の減少が確認され、その過程での種々な遺伝子の関与が示唆された。今後はさらに詳細に分化誘導機構を解析し、より有効な新しい分化誘導物質の探索を行うつもりである。
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