我々は今までに小脳mRNAを材料としてpCD-2発現ベクターを用いてcDNAライブラリーを作製し、COS-1細胞に導入して一過性に発現させ、その順化培地をPC12細胞に添加すると交感神経様細胞に分化誘導クローン398(grp75R3)を得ている。本クローンは約1.1kbのインサート配列を有し、ヒートショクタンパク質ファミリーに属するラットgrp75のC末端領域に高い相同性を示す67アミノ酸から成る0RFが存在する。昨年度の研究においては、本grp75R3の大腸菌での大量生産システムを確立し、マウスを用いてポリクローナル抗体の作製に成功した。本年度においては、grp75R3を安定に発現するCOS-7細胞を樹立し、本因子の分化誘導能について解析を行った。 pBK-CMV発現ベクターにgrp75R3を導入し、pBK-CMV-grp75R3を作製した。次に、本発現ベクターをリポフェクション法によりCOS-7細胞に導入し、G418でセレクションを行ってgrp75R3を安定に高発現するCOS75R3細胞を樹立した。この細胞のライセートを昨年度作製した抗grp75R3抗体を用いてウエスタンブロット法で調べたところ、約12kDaの位置にバンドが検出された。本因子の推定分子量は6.7kDaであるので、糖鎖の付加やリン酸化などの修飾を受けいるものと考えられる。COS75R3細胞の培養上清でPC12細胞を処理したところ、交感神経様細胞に分化し、神経突起の伸長が認められた。しかし、順化培地をウエスタンブロット法で解析したところ、12kDaのgrp74R3のバンドは認められなかった。これらの結果は、grp75R3が直接PC12細胞の分化に関与していないことを示唆おり、来年度はCOS75R3細胞の培養上清に存在する分化誘導因子について解析を行う予定である。
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