研究概要 |
我々は新規神経分化誘導因子を単離するために、ラット小脳cDNA発現ライブラリーを作製し.COS-1細胞に導入して一過性に発現させ、その順化培地をPC12細胞に加え交感神経様細胞に分化誘導するcDNAのクローニングを試みた。その結果、cDNAクローン398(grp75R3)が得られた。本クローンは約1.1kbのインサート配列を有し、ヒートショクタンパク質ファミリーに属するラットgrp75のC末端領域に高い相同性を示す67アミノ酸から成るORFが存在する。本因子の神経分化における役割を明かにするために、まず大腸菌での大量生産システムを確立し、ポリクローナル抗体を作製した。次に、grp75R3を安定に発現するCOS-7細胞(grp75R3細胞)を樹立し、本因子の分化誘導能について解析を行った。その結果、COS75R3細胞の順化培地はPC12細胞を交感神経様細胞に分化誘導する高い活性示したが、grp75R3は検出されなかった。そこで、COS75R3細胞の培養上清に存在するNGFファミリー神経栄養因子であるNGF,BDNF,NT-3についてRT-PCR及び抗体を用いて解析を行った。その結果、COS-7細胞内で発現されたgrp75R3は直接PC12細胞を分化させるのではなく、COS-7細胞内でNGF遺伝子発現を選択的に促進することによってPC12細胞の分化を誘導していることが判明した。さらに、grp75R3と高い相同性を有し、ラット脳を含む種々の組織で発現が見られるgrp75もにも同様な作用が認められた。また、ラットグリオーマC6細胞にgrp75R3及びgrp75を導入した場合でもNGF mRNAの選択的な発現誘導が認められた。これらのデータ及びラットを絶食させると脳内でのgrp75mRNAの発現が誘導されることより、ストレスによってグリア細胞でのgrp75或いはgrp75R3の発現が促進される。その結果、NGF遺伝子の発現が上昇し、NGF、応答性のコリン作動性神経細胞などの生存が維持されるものと思われる。
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