研究概要 |
急性前骨髄球性白血病患者の治療にビタミンA酸(レチノイン酸,RA)は使用されるが、再発後効果がなくなることが知られている。本研究ではRAの新しい作用機構であるRAによる蛋白質修飾反応(レチノイレーション)の制御に関わる生体因子及び物質について医薬品としての可能性を検討することを目的とする。本修飾反応はレチノイルCoA中間体の生体、レチノイル部分の蛋白質中のアミノ酸への転移により起こると考えられるが、後者の反応を調節するレチノイルCoA転移酵素については既に報告した。そこで、前者の反応を触媒するレチノイルCoA合成酵素についてラットの肝臓の粗抽出液を用いて活性の測定を検討したところ、標識RAから標識レチノイルCoAが生成することを高速液体クロマトグラフィーによって確認した。また、本反応はCoA,ATP,MgCl_2を必要とし、100℃の加熱により酵素は失活した。肝臓の本酵素の比活性はミクロソーム画分に最も高く、臓器分布における本酵素活性とレチノイレーション量はほぼ同様の値を示し、両者の間に正の相関性が認められた。また本酵素活性は酵素量、基質濃度、時間に依存して上昇した。一方、本反応の制御物質を探索するため新規ステロイドとRAと構造上類似している新規ポリエンの生物作用を検討したところ、本化合物は抗癌作用を有しRAとの併用でRA作用を増強させること、また、レチノイレーション量を増加させることを見いだした。以上の結果から、レチノイルCoA合成酵素の高感度検出法を確立することができた。また、ラットの各臓器に本酵素が存在し、レチノイレーションに関与している可能性が示唆された。さらに、レチノイレーションを増加させる新規化合物、即ちレチノイルCoA合成酵素、レチノイルCoA転移酵素に影響を与える因子を見いだした。
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