本研究助成により、糖尿病性増殖型網膜症の発症原因における脈絡膜の血管新生異常の役割を検討した。脈絡膜や網膜の血管新生を評価する適当な方法がなかったので、組織培養系を用いて血管新生測定方法を確立し、以下の研究成果を得た。 1)糖尿病発症初期のストレプトゾトシン(STZ)-ラットやGKラットの培養脈絡膜は、ウシ胎児血清存在、不在下共に新生血管の増生を誘発し、この血管新生作用は正常ラットに比べて異常に大きかった。2)Advanced Glycation Endproducts(AGE)のひとつであるN(epsilon)-(carboxymethyl)lysine(CML)-修飾蛋白は、STZ-糖尿病初期や正常ラットの脈絡膜の血管新生作用を促進し、CMLの抗体である6D12は、糖尿病態の血管新生促進作用を完全に抑制した。3)糖尿病初期ラットの培養脈絡膜組織は、VEGFを多量に遊離し、TNF-alphaとPDGF-BB濃度も増加傾向を示した。4)漢方薬粉防已の成分テトランドリンとその誘導体(KS-1-4)が、糖尿病発症初期の脈絡膜血管新生促進作用を選択的に抑制し、更にVEGFやPDGF-BBによる血管新生作用も抑制した。5)糖尿病発症初期の網膜の血管新生作用は正常と同じであったが、脈絡膜の血管新生活性が共培養した網膜の血管新生作用を有意に減弱させた。6D12はこの血管新生減弱作用を完全に脈絡膜不在時のレベルまで回復した。6)糖尿病進行期ラットの脈絡膜は加齢によって血管新生作用を促進したが、糖尿病態によって増強しなかった。他方、網膜の血管新生作用は糖尿病態によって促進し、更に脈絡膜の血管新生活性によって有意に増強された。 以上の結果から、糖尿病初期において、脈絡膜組織に蓄積したCML-修飾蛋白が、同組織からVEGFをはじめとする血管新生因子を遊離して血管新生を促進することを明らかにした。この脈絡膜の血管新生活性が網膜の血管新生を抑制した。糖尿病態が進行すると、脈絡膜の血管新生活性が網膜の血管新生を逆に促進して、糖尿病性網膜症誘発の一因となることを結論できた。
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