キニノーゲンは血圧調節や炎症に重要な役割を果たす生理活性ペプチド、キニン類の前駆体蛋白質であり、同時に内因系血液凝固因子あるいは内在性システインプロテアーゼインヒビターとしての機能も保持する多機能蛋白質である。哺乳類には少なくとも2種類のキニノーゲン(高分子ならびに低分子キニノーゲン)が存在し、単一遺伝子からalternative splicingにより2種類のキニノーゲンmRNA生成が起こる。キニンの生理・病態での役割を明らかにする目的で、キニノーゲンノックアウトマウスの作製をgenetargetting法により行うため、平成10年度はマウスキニノーゲンのgenomic DNA構造解析を目標として研究を進めた。その結果、129系マウスキニノーゲンgenomiccDNAの全長約90%の塩基配列を決定し、既に得ているcDNA配列の情報から、この遺伝子は11のexonより構成され、全長約24kbであった。構造上の特徴として次のことが判明した。(l)Exonlから9までは高分子及び低分子キニノーゲンmRNAに共通な部分に対応していた。(2)Exon10は分割され、Exon10の5'側のブラジキニン配列を含む78bpは高分子及び低分子キニノーゲンmRNAに共通な部分に対応し、一方、3'側953bpは高分子キニノーゲンmRNAの3'側特異的領域に対応した。(3)Exon11は、高分子キニノーゲンmRNAのポリA付加部位より下流に約1500bpをはさんで存在し、低分子キニノーゲンの3'側特異的領域に対応した。以上の結果は、高分子キニノーゲンmRNAの3'側特異的構造の生成は、ブラジキニン配列を含むExon10の先頭から連続的にExon10のポリA付加部位までの転写により、一方、低分子キニノーゲンmRNAの3'側特異的構造の生成は、ブラジキニン配列を含むExon10の5'側78bpとExon11との間のスプライシングにより生成されることを示す。以上の解析結果を基に、現在キニン欠失のためのtargetting vector構築を行っている。
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