研究概要 |
連続した不斉4級炭素を含み高度に歪んだ4環性セスキテルペン、トリコテシノールAは,質的に全く新しい発がんプロモーターである.したがって,そのエナンチオ選択的な合成法の開発とそれを基盤とした構造活性相関研究は,既存の発ガン機構の理解を深めるばかりか,未知なる発ガン機構の発見と生命現象としての発ガンの本質的な解明への糸口となる. 本年度は,交付申請書の研究実施計画に示した形式全合成の標的となるAB環形成の鍵中間体であるエノン構造を6員環に組み込んだスピロラクトンの高効率的合成法の開発を重点的に行った.まず,スピロラクトン化には,D-マンニトールより誘導可能な光学活性ブチロラクトンをキラルシントンとして用いることとした.このブチロラクトンに対して,2通りの方法によりスピロラクトン化を試みた.すなわち,ラクトンカルボニルα位のエチリデン化とブロモペンテンによるα位の立体選択的なジアルキル化によって生成するジエンに対してRing-closing metathesisを適用し,高収率でスピロ炭素が望ましい絶対立体配置をもつスピロラクトンの合成に成功した.一方,ラクトンカルボニルα位にベース存在下ジハロゲン化アルキルを用いてのスピロラクトン化にも成功した.これは,キラルベース存在下でのシリルエノールエーテル化,α,β-エノンへの変換により望ましい絶対構造のスピロラクトンへと導くことが可能である.今後,本年度の実績で得られた鍵中間体スピロラクトンから,いくつかの工程を経てシスAB環の構築を完成させるとともに,構造活性相閑研究への展開も考慮した全合成ルートの計画を目論んでいる.
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