ラット小腸、Caco-2細胞及びLLC-PK1細胞を用いたin vitro透過実験により、以下の新知見を得た。 1. 従来、脂溶性の欠如が難吸収性の最大要因とされていた塩酸バンコマイシンや硫酸アルベカシンに対して能動的な分泌機構の関与を見出した。したがってこの分泌機構が先天的に欠損又は発現不十分な個体においては、吸収量が予期せず増大する可能性があり、臨床上注意が必要である。 2. 種々ステロイドホルモンの中で、メチルプレドニゾロンはラット回腸部位でp-糖たん白の関与によって吸収が著しく抑制されることを見出した。ヒドロコルチゾンやプレドニゾロンではその関与はかなり小さく、さらにプロゲステロンやテストステロンなどの性ホルモンではP-糖たん白との相互作用は全く認められなかった。これらの結果は、同じ基本骨格を有してもP-糖たん白の基質認識性が構造上のわずかな違いにより大きく変化することを示唆した。 3. 硫酸ビンブラスチンの消化管吸収の部位依存性を検討した結果、この抗ガン剤の場合にはメチルプレドニゾロンと異なり、P-糖たん白による吸収抑制は空腸部位において最も顕著であることが見出された。この結果は、P-糖たん白による吸収抑制効果が基質依存的に小腸部位間で変動することを示唆し、消化管吸収抑制機構の評価にはCaco-2などの培養細胞からのデータのみで不十分であることが示された。 4. β-ラクタム系抗生物質の人における吸収性は、能動的分泌機構の関与の程度を表すパラメーターを用いることによりラット小腸を用いて極めて良好に予測できることを見出した。またラット小腸で見出された吸収抑制機構はCaco-2やLLC-PK1には発現していなかった。 5. プロドラッグ化によるβ-ラクタム系抗生物質の吸収性改善のメカニズムについて検討を加えた結果、小腸上皮細胞内でプロドラッグの加水分解によって生じる副産物が能動的分泌機構を阻害し、その結果として母物質の吸収が改善される可能性を見出し、脂溶性の増大が吸収改善の主要因であるという従来の概念を覆した。
|