血圧は種々の血圧調節機構によって常に一定になるように調節(フィードバック調節等)されている。薬物による高血圧症の治療は、これら血圧調節機構が正常に働かなくなった場合に行われる。高血圧治療薬の体内動態(PK)と降圧効果(PD)の定量的な関係を確立することは、高血圧患者の最適投与計画を構築すること、及びQOLを維持する上でも臨床上非常に重要である。高血圧治療薬のPK-PDの関連性については、国内外を問わず詳細に検討されており、薬物の血漿中濃度あるいは作用部位濃度を用いて、PDとの関連性について解析を行うことが一般的である。しかし、薬物投与後に最終的に観察される血圧は、薬物による血圧降下作用と血圧調節機構による血圧上昇作用(交感神経系の興奮によるフィードバック調節)を含んだものであり、PKとPDを直接的に関連付けることは、非常に困難であると考えられる。そこで本研究は、カルベジロール(CVL)をモデル薬物に選び、血圧調節機構(血漿中ノルエピネフリン(NE)濃度の変動)を含んだPK-PDモデルを構築し、CVLのPKとPDを定量的に関連付けることを目的にして検討を行った。 交感神経系の血圧調節機構を含んだPK/PDモデルを構築するためには、血漿中NE動態と血圧上昇作用を定量的に関連付ける必要がある。そこで、NE投与後の血漿中NE濃度と血圧の変動について検討を行った。その結果、血漿中NE動態は非線形の消失過程を含んだ2-コンパートメントモデルを用いることで定量的に説明できること、及びNEの血圧上昇作用は血漿中NE濃度の関数として最大効果(Emax)モデルを用いることで定量的に説明できることが明らかとなった。更に、CVL投与後の血漿中CVL濃度、血漿中NE濃度の変動及び血圧降下作用について検討を行った。その結果、血漿中CVL動態は線形の2-コンパートメントモデルを用いることで、血漿中NE濃度の変動は構築した血圧調節系モデルを用いることで定量的に説明できることが明らかとなった。更にCVLの血圧降下作用を構築した血圧調節系モデルで解析した結果、CVLの体内動態と血圧降下作用が定量的に関連付けできることが明らかとなった。
|