アミノ酸抱合の第一段階を触媒とするmedium chain acyl-CoA synthetaseの1種類をラット肝ミトコンドリアより精製した。本酵素は中鎖脂肪酸、メタ位とパラ位に置換基を有する安息香酸類及びα位に置換基を持たないアリル酢酸に対し活性を示したが、オルト位に置換基を有するサリチル酸等には活性は示さなかった。薬物や内因性物質の代謝阻害に基ずく相互作用に・ついての基礎的検討を行い、本酵素はカルボキシル基のβ位に水酸基を有する解熱鎮痛剤、サリチル酸やジフルニサルによって拮抗的に強く阻害されることを明らかにした。カルボキシル基のβ位にケトン基を有するナリジクス酸(化学療法剤)、エノキサシンとオフロキサシン(ニューキノロン系抗菌剤)によっても同様に強く阻害された。これらの結果より、中鎖脂肪酸の代謝はこれら医薬品によって阻害される可能性が示唆され、アスピリンやサリチル酸によるライ症候群発症との関連性が推察された。ハイブリッドトリグリセリド形成に伴う外来異物の体内蓄積における本酵素の関与について検討した結果、本酵素は電子供与性の置換基を有する安息香酸誘導体(例、3-phenoxy-、4-pentyl-、4-heptyl-benzoic acid)のCoAエステル体形成に関与し、その活性なエステル体はハイブリッドトリグリセリドの前駆体になりうることが明らかとなった。解毒としての本酵素の役割については、電子供与性の置換基を有する安息香酸誘導体のグリシン抱合体形成における主要な酵素であることが判明した。本酵素のアミノ酸配列についてはN末端がブロックされていることがわかり、現在検討中である。 一方、サリチル酸に活性を示す酵素の精製も同様に検討したが、ラット肝ではその酵素の発現量はかなり少ないと考えられた。そこで、サリチル酸を含むオルト位置換安息香酸誘導体のグリシン抱合体を肝と腎のミトコンドリアを使って検討した結果、サリチル酸のグリシン抱合体は肝では形成されず、腎でのみ観察された。従って、現在腎のミトコンドリアからサリチル酸に活性を示す酵素の精製を試みている。
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