医薬品及び農薬や殺虫剤などのカルボキシル基含有外来異物の解毒機構の一つであるアミノ酸抱合に起因する副作用(薬物相互作用)及び毒性発現機構解明や毒性予測の観点から本研究を計画した。しかし、アミノ酸抱合に関わる酵素系についてはほとんど情報がなかったことから、まずmedium chain acyl-CoA synthetaseの1酵素を精製し、酵素の基質特異性、阻害、至適pHなどを明らかにした。その結果、(1)ラット、マウス、ウシの肝臓と腎臓より精製した酵素の基質特異性に若干の種差が存在すること、(2)肝よりも腎の方が本酵素の比活性は高く、また、肝と腎では酵素の発現が異なっていること、(3)基質や阻害剤の構造的特徴を基に分子モデリング法を用いて得た酵素の活性中心において、基質が結合するポケットにはflatな疎水性領域とカルボキシル基が結合する領域とカルボキシル基のβ位付近はpositiveに電荷した領域があることが判明した。また、本酵素は(4)カルボキシル基のβ位に水酸基やケトン基を有する解熱消炎鎮痛剤とキノロン・ニューキノロン系抗菌剤により強く阻害されること、(5)中枢性痙攣を引き起こすことが報告されているエノキサシンとフェルビナクの併用により本酵素も強く阻害を受けることが分かり、ライ症候群や痙攣を引き起こすメカニズムの1つとして本酵素の阻害が考えられることが示唆された。ハイブリッドトリグリセリド形成におけるメカニズムとしては(6)パラ位に大きなアルキル基やアルコキシル基を有する安息香酸誘導体のトリグリセリドへの取り込みに本酵素が関与していること、(7)ハイブリッドトリグリセリドの形成は化合物の活性中間体であるacyl-CoA体の形成速度と安定性により決定されること等を明らかにした。
|