In vitroでの銅イオンによる低密度リポ蛋白の酸化において、銅イオンが低密度リポ蛋白のアポB蛋白質と結合することが反応開始に必要だが、その酸化機構ははっきりしていなかった。そこで、低密度リポ蛋白のアポB蛋白質のモデル化合物として低分子量のヒスチジン含有ペプチド化合物の銅錯体を作り、これらの銅錯体による低密度リポ蛋白の脂質の主構成成分であるリノール酸を含むリポソームの酸化反応を分光光度計と高速液体クロマト装置等を用いて解析した。 種々のヒスチジン含有ペプチドの銅錯体を調製し、その酸化還元電位をサイクリックボルタメトリーで求めた。その結果、銅錯体の酸化還元電位と銅錯体によるリノール酸の酸化速度との間に相関性が存在することを見い出した。即ち、酸化還元電位の高い銅錯体は酸化還元電位の低い銅錯体よりも速くリノール酸を過酸化し、さらに分解することを見いだした。また、過酸化水素が存在すると銅錯体によるリノール酸の酸化が加速された。 銅錯体によるリノール酸の酸化がアスコルビン酸添加により抑制されるが、トロロックス添加では、逆に促進されることを見い出した。これに対して、鉄錯体の場合、銅錯体とは逆の結果となった。アスコルビン酸等の内在性抗酸化物質が銅イオンによる不飽和脂肪酸の過酸化を抑制することは、さらにはアスコルビン酸等が動脈硬化の防止剤になることを示唆した。 銅錯体によるリノール酸の過酸化物の分解物とアポB蛋白質のモデル化合物であるリジン誘導体(アセチルリジンとポリリジン)との反応から生じる蛍光物質(励起波長360nm、蛍光波長430nm)の蛍光波長が低密度リポ蛋白の酸化において、しばしば二次産物として見られる蛍光物質の蛍光波長と同じであることを見い出し、構造の同定を行っている。
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