研究概要 |
ロシア船籍タンカー「ナホトカ号」の重油が流出する事故から1年後の石川県内における漂着重油の残存状況を調査するとともに,漂着重油の多環芳香族炭化水素(PAH)濃度および変異原性の1年間における変化を追跡するとともに,重油の内分泌撹乱作用を検討した.1998年3月下旬から4月上旬にかけて,石川県珠洲市から加賀市までの海岸線を徒歩により調査した.加賀地方では重油が残存している海岸は1ヶ所のみで,残存量も僅かなものであった.これに対し,能登地方には多くの海岸で重油が残存していた.事故当時と大差ない程の大量の重油が残存している海岸も発見され,事故から1年以上が経過しているにも拘らず,能登地方では未だに重い汚染が続いている海岸があることが明らかになった.次に,事故後から定期的に採取してきた漂着重油試料を用い,漂着重油中PAH濃度の経時変化を検討した.2環のナフタレン濃度は速やかに減少したが,3〜6環の化合物では著しい変化はなかった.事故から1年後に採取した漂着重油試料においても,3〜6環の化合物の濃度は「ナホトカ号」積載重油中の濃度の1/2以上であり,これら化合物は重油中で安定であることが明らかになった.同じ漂着重油試料について,間接および直接変異原性の経時変化を検討した.間接変異原性の強さは,事故後1年の試料で約1/2になり,概ねPAH濃度の変化と対応した.一方,直接変異原性では有意は変化は見られず,PAH濃度変化と対応しなかったことから,光や微生物などによるPAHの分解生成物も変異原性化合物として試料中に留まっていることが考えられた.更に,女性ホルモンおよび男性ホルモンにそれぞれ応答する培養細胞系を用いて,重油の内分泌撹乱作用を検討した結果,重油中には女性ホルモン様作用および男性ホルモン様作用を示す化合物が含まれることが明らかになった.
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