本研究の目的は、枯草菌ゲノム解析により見つかった新たな細胞増殖必須遺伝子、yycF-G(2成分制御系に属する遺伝子)とywlC(SUA5ファミリーに属する遺伝子)の機能解析である。両遺伝子は、その新規性から、新しい作用機序を持つ抗生物質を探索、創出するための良い標的遺伝子に成り得ると期待できる。 (1)yycF-G遺伝子の機能解析:この遺伝子が細胞増殖に必須であることは分かっているが、その機能はまだ明らかになっていない。そこで、その機能を探るために、YycF転写制御因子により支配される遺伝子群の同定をDNAマクロアレイ法を用いて試みている。この研究の過程で、細胞分裂に必須な遺伝子ftsZの転写(三つあるプロモーターのうちの一つ)がYycFレギュレーターにより制御されていることを見出した。本年度は、このプロモーター領域に種々の欠失を導入し、YycFによる制御の原因となっているDNA配列の同定を試みた。その結果、P1とP2プロモーターの間の約30塩基対の中に存在することが分かった。さらに、YycF蛋白質を精製し、ゲルシフト法でこの蛋白質が確かにこの30塩基対を含むDNA断片と結合することを証明した。現在、これらの結果をまとめ、Microbiologyに投稿中である。 (2)ywlC遺伝子の機能解析:昨年度、この遺伝子の破壊株を作成し、その成長速度が極めて低下することからこの遺伝子は細胞の正常な増殖に必須であることを明らかにした。このホモログである酵母SUA5遺伝子も破壊すると生育が遅くなり、その破壊株は乳酸を炭素源とする培地では生育できないことが知られている。枯草菌ywlCについてもこの可能性を検討したが、この破壊株は乳酸培地で生育した。従って枯草菌ywlcはSUA5ファミリーに属するが、酵母SUA5とは少し異なる機能を持っているように思える。
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