現在用いている正常マウス肝由来伊東細胞及びメタロチオネイン遺伝子欠損マウス肝由来細胞との間で増殖速度に対して亜鉛イオン、腫瘍壊死因子の作用に差はない。しかし腫瘍壊死因子と亜鉛を共存させると細胞の生存は低下した。これは正常マウス肝由来伊東細胞で大きくこれまでの結果と異なっている。これまで使用していた腫瘍壊死因子の入手が不可となり、他種の腫瘍壊死因子を用いた事、そのため生物活性単位から重量単位による表記に伴い系内使用濃度の差による可能性が考えられた。また、今回は細胞状態評価に用いたMTT法はミトコンドリア電子伝達機能を反映するものの必ずしも細胞死を表さない場合もあり今後他方法を用いて検討する。 亜鉛の作用は従来の報告では細胞保護に作用する場合が多く、上記のように細胞死を亢進する場合は見られない。そこで伊東細胞に特異的かどうか、また腫瘍壊死因子に特異的かどうかをみるため、他細胞で亜鉛自身が細胞死に対してどのように作用するか検討した。ヒト白血病細胞のHL-60にカドウミウムを添加するとアポトーシスがおこりミトコンドリアからシトクロームcの遊離がみられた。腫瘍壊死因子の場合と同じミトコンドリアを介するアポトーシスである事が示唆された。カドミウムは活性酸素産生を介して作用すると考えられている。そこで亜鉛を共存させるとシトクロームc遊離は完全に抑制された。正常マウス肝由来伊東細胞で腫瘍壊死因子による酸化的ストレスを亜鉛は増強するのに対し、HL-60ではカドミウムによる酸化的ストレスに対し亜鉛は抑制的に作用する事が示唆された。
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