従来の実験条件で行われてきた細胞や組織への亜鉛負荷はメタロチオネインを誘導し亜鉛結合体となるためメタロチオネイン(MT)の細胞障害抑制作用に焦点が当てられ、亜鉛自体の機能解析が困難だった。また、亜鉛の有する生理的意義の解明には細胞に対する保護作用と障害作用の両面からの解析が必要である。本研究では、MT発現欠損細胞を含めた数種細胞を用いて検討した。 HL-60細胞のviabilityは培地への亜鉛300uM添加で70%に低下するが、亜鉛イオノフォアーのピリチオンが1.0uM存在すると、亜鉛は20uMで同程度を示した。この時DNA断片化が顕著にみられた。亜鉛のより高濃度では断片化はみられなかったが、viability減少がおこる事からアポトーシスではなく壊死による細胞死と考えられた。繊維芽細胞では、亜鉛によるviability減少は正常繊維芽細胞よりMT発現欠損細胞で大きく亜鉛の作用を受けやすく、また、亜鉛イオノフォアー(ピリチオン)によりDNA断片化が顕著にみられた。ピリチオンの高濃度及び亜鉛共存下では断片化はみられず、壊死による細胞死と考えられた。培地への亜鉛、ピリチオン及びその両者の共存は細胞内亜鉛の増加を示す事も観察された。細胞内亜鉛濃度に依存して細胞死経路が規定されると考えられた。 腫瘍壊死因子は活性酸素を産生して多彩な作用を示す事が知られるが、培地へ添加するとMT発現欠損マウス細胞より正常細胞でviabilityが低下した。腫瘍壊死因子に加えて亜鉛が共存しても同傾向であった。また、MT存在による毒性増強作用はIkB-α、p38 MAPK等に依らない事が明らかとなり、さらに情報伝達系におけるMTの作用の検討が必要である。
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