ストレスに応答し亜鉛が肝臓に蓄積する。亜鉛は必須金属で様々な生体応答の調節を行うが、蛋白質のSH基等と反応して構造変化を引き起こし障害も惹起する。従来亜鉛は毒性が低く細胞障害抑制性が強調されてきた。それは細胞や組織への亜鉛負荷はメタロチオネイン(MT)を誘導し亜鉛結合体となるためMTの細胞障害抑制作用に焦点が当てられ、亜鉛自体の機能解析が困難だった為である。亜鉛がアポトーシスを抑制し、その作用部位としてcaspase-3活性阻害である事が提唱されている一方で、脳虚血の際に過剰の亜鉛が遊離され神経細胞を障害することが報告され、亜鉛の生理的意義は細胞に対する保護作用と障害作用の両面からの解析が必要である。 本研究では、MT欠損細胞等数種細胞を用い亜鉛代謝を変動させ、亜鉛と拮抗し活性酸素産生するCdを用いアポトーシス系を構築し、ミトコンドリアを介する事を示した。同時に亜鉛は用いた細胞の障害を惹起しなかった。そこで細胞内亜鉛濃度増加時の亜鉛及び腫瘍壊死因子存在下の作用を解析した。 一過性細胞内亜鉛濃度の亢進した時の生体の細胞の生存がどのように変化するかを亜鉛イオノフォアー(ピリチオン)を用いて検討すると、HL-60細胞と繊維芽細胞共にある一定濃度でのみDNA断片化が観察された。より高濃度では断片化はみられなかったが、細胞生存率減少がおこる事からアポトーシスではなく壊死による細胞死と考えられる。細胞内亜鉛濃度により細胞死経路が規定されると考えられた。更に亜鉛依存的なアポトーシス誘導は未知経路の可能性が示唆され、今後検討の必要がある。活性酸素を産生して多彩な作用を示す腫瘍壊死因子はMT欠損マウス細胞より正常細胞で生存率が低下した。この細胞毒性発現に伴うMTの毒性増強作用はIkB-α、p38MAPK等に依らない事が示され、さらに情報伝達系におけるMTの作用の検討が必要である。
|