本研究では、微量元素セレンが抗酸化因子として果たす役割を解析するため、多くの動物種で最も存在量の多いセレン蛋白質であるcellular glutathione peroxidaseの活性が著しく低いモルモットに注目して実験を行った。モルモットは、ヒトと同様ビタミンCを生合成できない、という特徴も持っている。初年度の検討で、肝臓ではリン脂質の過酸化物を基質とすることのできるPHGPxの活性が他の動物種と同程度に認められること、この活性が確かにPHGPxの遺伝子発現に由来していることを見いだしている。一方、最近セレン蛋白質であることが明らかにされたthioredoxin reductase(TR)は、酸化型のビタミンCであるdehydorascorbic acid(DHA)の還元能を有する、という報告がある。そこで、モルモットのTR活性を調べたところ、肝臓、腎臓よりも副腎における比活性が最も高いことを見いだした。副腎はビタミンC濃度の最も高い組織であることから、DHAの還元に関与している可能性を探った。モルモット副腎の可溶性画分をADP affinity columnで分離したところ、TR活性、セレンのピークと一致してDHA還元活性が認められた。ラットをセレン欠乏食で8週間飼育したところ、肝臓中のTR活性の変化とDHA還元能は並行して減少したが、モルモットをセレン欠乏食で飼育しても、肝臓中のセレン濃度は減少するものの、TR活性、DHA還元能はわずかしか減少しなかった。副腎については、セレン欠乏にしても、TR活性DHA還元能ともにまったく変化しなかった。従って、モルモットのTRは、DHA還元に関与しており、しかも、ラットとは異なり、セレン欠乏の影響を受けにくいことがわかった。今後、TRの各アイソザイムのcDNAをクローニングし、発現調節機構を検討する必要がある。
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