我々は抗精神病薬ハロペリドール(HP)投与時にみられる遅延性ジスキネージアやパーキンソニズムなどの神経毒性発現と関連するカチオン性代謝物生成(HPP+)に関与する脳組織内薬物代謝酵素系について検討した。ラット脳ホモジネートおよびP-2遠心画分(ミトコンドリア、シナプトゾームを含む)を用いてカチオン性代謝物(HPP+)生成反応を検討した結果、この反応はNADPH非依存性の薬物代謝反応であり、神経毒惹起物質 MPTP のカチオン性代謝物(MPP+)生成反応とは異なり、脳組織内モノアミン酸化酵素(MAO)などのモノオキシゲナーゼ系酵素の関与が低いことを明らかにした。P-450系酵素がもつ、別の酵素反応を触媒する NADPH 非依存の反応に関与するペルオキシゲナーゼ系酵素によるカチオン性代謝物(HPP+)生成反応について検討した。ラット脳ホモジネートに過酸化物クメンヒドロペルオキシド(CuOOH)を加えた反応系により、代謝物HPP+生成が2〜3倍に増加し、この増加は過酸化物濃度に依存して直線的に高まる傾向を示した。またこの反応は金属キレート剤の添加により抑制されることより、ヘム蛋白酵素であるペルオキシダーゼの関与が示唆された。次に Horseradish Peroxidase や Myeroperoxidase 酵素標品を用いて、基質HPのHPP+生成反応を検討した。その結果、HPP+生成活性はこれらの酵素量に依存して高まることが観察された。脳組織内 HPP+ 生成反応へのペルオキシダーゼ系酵素の関与について確認するために、ペルオキシダーゼ阻害剤による影響についても検討した。阻害剤ヒドロキシルアミンやパラアミノ安息香酸はこの反応を有意に抑制した。以上の研究成果より、脳組職ホモジネートP-2 遠心画分に存在する基質 HP のカチオン性代謝物 HPP+生成反応は、ペルオキシダーゼ系酵素であるP450ペルオキシゲナーゼ系酵素により触媒されていると考えられる。
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