研究概要 |
ヒトを含む野生動物中のPCBの代謝および体内動態研究を行い,次のような知見を得た。 (1) PCB混合物(Kanethlor 500)を暴露したラットの体内では特定の構造を有する10種以上の水酸化体(主成分4-OH-2,3,5,3',4′-pentachlorobiphenyl)が血液中に残留した。また,mono-orthoPCBおよび3,4,5,3',4'-pentaCBのラット代謝研究で,特定の水酸化体は血液中に母化合物より高濃度で残留することが分かった。一方,肝臓に蓄積が予想される3-メチルスルホン代謝物の組織残留性はその塩素置換によって大きく異なることが分かった。 (2) 地中海で捕獲されたアザラシ(harbor seal),イルカ(striped dorphin)の肝臓,肺,子宮および脂肪組織(合計54サンプル)中のPCBおよびその残留代謝物について分析した。これらの組織分布および残留構造はラットで得られた結果と異なる点がいくつか見られた。 (3) ヒトにおけるPCBの体内動態を検討するために,血液および母乳を用いて,その微量分析法を検討した。ゲルパーミエーションカラムおよびフロリジルカラム処理法を用いて,PCB-OH,PCB-methylsulfone体を効率よく分別定性,定量する方法を確立した。これをヒト血液(プール血清100ml)および母乳100mlで探索した結果,血液中にはPCB水酸化体が10種以上,メチルスルホン体が数種検出され,一方,母乳からはメチルスルホン体(主成分3-Methylsulfonyl-4,4'-DDE)のみが数種類検出された。 各試料中から残留代謝物成分が単離,特定されたことによって,今後,PCBの代謝物を含めた生体影響研究,特に内分泌系への影響研究への進展が見込まれる。
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