発癌プロモーターによって発現が変化する遺伝子から、癌の進展に関与している遺伝子を探し、その機能を調べることによって発癌のプロモーションを分子レベルで明らかにすることを目的とした。BALB/3T3細胞2段階形質転換試験を2段階発癌試験のin vitroモデルとして用いた。12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(TPA)、オカダ酸、オルトバナジン酸塩は、強い形質転換促進活性を示した。細胞にこれらの物質を作用させ、経時的に総RNAを抽出し、mRNA・ディファレンシャル・ディスプレイ法によってmRNAを可視化した.3つのプロモーターに共通した発現変化を示す遺伝子のcDNA断片2つ、G09とC05を分離した。G09は、プロモーターの作用で発現が増加した。G09の塩基配列は、核タンパク質Np95のcDNA(全長3488bp)の2198-2708と完全に一致した。C05は、プロモーターによって発現の低下が認められるもので、297bpであった。GenBank+EMBL+DDBJ+PDBの塩基配列データベースを検索したが、C05とホモロジーのある塩基配列は見つかっていない。2つの遺伝子の差発現は、特異的プライマーによるRT-PCRとノーザンブロットによって確認された。Np95は、ネズミ胸腺細胞で細胞周期のS期に発現し、lymphoma細胞株では恒常的に高発現している。BALB/3T3繊維芽細胞においては、Np95の発現は血清の増殖刺激により上昇た。さらに発癌プロモーターによる処理でNp95の発現が上昇する時期には、ほとんどの場合DNA合成も増加した。これらの結果から繊維芽細胞においてもNp95は増殖に関係して発現することが示唆された。また、発癌プロモーターによって共通した発現変化を示す複数の遺伝子が見出されたことは、これらの発癌プロモーターに共通の機序が存在する可能性を示唆している。2つの遺伝子の発癌促進への関与に関しては、さらに研究する必要がある。
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