研究概要 |
1.シミュレーションモデルの改良:糖尿病網膜症に関する内外の臨床研究の再検索結果から,平成10年度に開発したモデルの推移確率および治療効果の数値を修正し,より現実に即したシミュレーションとした. 2.効用理論の評価:入院中の糖尿病患者を対象に,評点尺度法と基準的賭け法によって現在の自分自身の健康状態と,架空の健康状態である失明状態の効用値を測定した.同時に東大式エゴグラムと自記式の性格調査を実施し,効用値と臨床的な指標,自我状態,性格特性との関連を検討した.その結果,効用値は糖尿病状態を評価するために従来から使用されてきた臨床的な指標よりも,性格特性との関連が強いことが示された. 3.費用効用分析:開発したモデルと保険診療報酬点数を用いて費用効用分析を行った.その結果,費用と効用を年率5%割り引いたデータでは,36か月毎,24か月毎,12か月毎,6か月毎のQALY(quality-adjusted life year)はそれぞれ,14.11年,14.13年,14.15年,14.17年とスクリーニング間隔が短いほど長くなった.増分費用効果比(incremental cost effectiveness ratio)は,6か月毎が4,571.8千円/QALYと,12か月毎の662.1千円/QALYに比較して高値となり,36か月毎は除外された.つまり6か月間隔のスクリーニング実施は,12か月間隔に比較してより多くの追加投資が必要と計算された. 4.結論:糖尿病網膜症といった慢性的に経過する疾病の対策では,本研究のような患者の価値観や意向,社会的な意味での効率性といった面からの検討が必要である.
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