ゲノム刷り込みを受ける遺伝子はゲノム上でクラスターを作り、そこでは複数の遺伝子に及ぶ制御機構が働いている。本研究では刷り込みを受ける遺伝子のクラスターをゲノムドメインのモデルとして捉え、とくにドメインの境界を決める機構に的を絞って研究している。平成10年度は、刷り込みドメインと通常のドメインの境界があるマウスH19/L23mrp遺伝子間領域を対象として、以下の成果を得た。 (i)まず「境界配列」や「インスレータ(遮断配)」の存在をトランスジェニックマウスで検定するため、検定用ベクターを構築した。すなわちH19遺伝子、lgf2遺伝子、L23mrp遺伝子のプロモーター下にlacZレポーター遺伝子を接続してマウスに導入したところ、H19やlgf2のプロモーターがエンハンサー依存的に発現することが分かり、検定用ベクターとして有用であることが確かめられた。(ii)マウスH19/L23mrp遺伝子間領域に刷り込みを受けない転写単位Nctc1が存在することを見つけ、その結果「境界」はH19/Nctc1間のおよそ20kbの中にあることが分かった。(iii)このマウス領域に対応するヒト由来のコスミドクローンを単離し、その全塩基配列およそ40kbを決定した。得られた配列をマウスの配列を比較したところ、H19/L23mrp遺伝子間領域に合計10箇所の保存された配列があることが分かり、そのうち7つが組織特異的エンハンサー活性をもつことが明らかになった。残りの3つの保存配列のいずれかが「境界配列」または「インスレータ(遮断配列)」としての機能をもつ可能性があり、上記ベクターを用いて解析中である。
|