刷り込み遺伝子の配偶子特異的メチル化機構を探るため、良性卵巣奇形腫(以下、奇形腫)を利用した。最初に45のDNAマーカーで25例の奇形腫の分類を行った。メチル化解析は父性メチル化の代表としてH19、母性メチル化の代表としてSNRPNを選んでサザーン法およびPCR法により行った。また、ヒト内在性レトロウィルス(HERV)K-familyを選び、活性別およびインプリンティングドメイン内外の局在別に解析することを計画した。結果および結論を以下に要約する。 1.欧米の報告と異なり、meiosisIIからの奇形腫発生は25例中1例(4%)と稀である。 2.奇形腫は遺伝的に異質な(heterogenousu)細胞集団から成る。 3.個々の奇形腫におけるH19およびSNRPNのメチル化はきれいな逆相関関係にあり、奇形腫発生の卵形成上におけるステージが進むにつれ、両者のメチル化パターンは卵子のそれに近づく。 4.ヒトH19のprimary imprintは卵形成のかなり遅い時期まで完全に消去されない。またSNRPNのprimary imprintも同様に遅くまで確立されない。 5.以上より、配偶子特異的primary imprintの形成は漸進的構築過程であること、primary imprintの消去および確立と相反する二つの機構になんらかの共役した過程が存在することが示唆される。 6.胎盤、精巣、肺および末血リンパ球で6種類のHERV-Kの発現が認められ、複数の組織で発現していた3つの活性型HERV-Kを単離したが、11p15.5および15q11-q13に局在するHERV-Kはコスミドライブラリーのスクリーニングからもコンピューター検索からも得ることができなかった。
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