胃粘膜ECL細胞からのヒスタミン放出における細胞内情報伝達系を解析することを目的として、前年度に引き続いて、アデニル酸シクラーゼ系およびグアニル酸シクラーゼ系の両系の関与およびクロストークについて検討を行った。(1)細胞内cAMP増加薬であるホルスコリン、dbcAMPにより胃酸分泌が誘起され、それらの軽度刺激による酸分泌はファモチジンにより抑制されたが、強度刺激によるものは抑制されなかった。これらの結果は細胞機能の活性化において、ECL細胞の方が壁細胞よりもcAMP感受性が高いことが示唆された。(2)ホスホジエステラーゼ阻害薬であるIBMXとV型ホスホジエステラーゼ阻害薬ザプリナストを用いて胃酸分泌反応を検討した。IBMXは酸分泌刺激を起こしたが、ザプリナストにより酸分泌は得らず、酸分泌経路においてV型ホスホジエステラーゼは存在しないか、もしくは酸分泌反応においてほとんど関与していないことが推測された。(3)細胞内カルシウム濃度を上昇させる処置によっても酸分泌が惹起されたが、細胞外カルシウム濃度が低濃度のときファモチジンにより抑制されるものの、高用量では影響を受けなかった。したがって、ECL細胞は壁細胞と較べてカルシウムによる活性化の閾値が低いものと推定された。(4)ECL細胞以外のヒスタミン含有細胞としてマスト細胞を例にとって検討したところ、内因性・外因性NOともにマスト細胞からのヒスタミン放出を抑制し、ヒスタミンの放出に対する関与が反対の方向であることが判明した。以上の結果より、アデニル酸シクラーゼ系およびグアニル酸シクラーゼ系はともにECL細胞からのヒスタミン遊離には促進的に、マスト細胞からのヒスタミン遊離には抑制的に働くことが判った。
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