研究概要 |
ニューロステロイド(NS)系を介したGABA_A受容体(GABA_A-R)機能制御系の重要性を明らかにし,この制御系を標的とする新規中枢作用薬の開発基盤を確立するための薬理学的,神経化学的研究を行った。薬理実験:心理的ストレス負荷動物には隔離飼育マウス(IS)を,対照群には群居飼育マウス(GR)を用いた。ペントバルビタール(PB:50mg/kg,i,p,)投与後,正向反射消失時間を睡眠時間として測定した。試験薬は脳室内または腹腔内投与した。神経化学実験:大脳皮質よりNSを分離精製し,ガスクロマト質量分析法で定量した。中枢性ベンゾジアゼピン(BZD)受容体(CBR)とNS産生に関与するミトコンドリア性BZD受容体(MBR)に働く内因性ペプチドdiazepam binding inhibitor(DBI)の遺伝子発現に及ぼす心理的ストレスの影響を調べた。1.IS群ではGABA_A-R機能促進性NS(allopregnanolone:ALLO)量が低下し,それに伴ってPB睡眠時間が短縮した。抗うつ薬fluoxetineはIS群の脳内ALLO量及びPB睡眠時間を正常化させた。2.脳室内投与したDBIはGR群のPB睡眠のみを短縮し,この作用はCBR拮抗薬flumazenilで抑制された。3.IS群の視床下部DBI遺伝子の発現量はGR群と比べて著明に低下していた。以上の結果,(1)脳内ALLO量の減少がGABA_A-R機能を低下させ,ストレス病態を発現させること,(2)脳内ALLO量の正常化によりストレス病態が改善される可能性が高いことが示唆された。更に(3)心理的ストレスによるDBI活性の上昇が一部,PB唾眠時間の短縮に関与することが示唆されたが,DBImRNA発現量は逆に低下したことからDBI遺伝子発現系におけるフィードバック制御系の存在,やDBI以外の内因性物質の存在の可能性も推察された。
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