研究概要 |
モルヒネは従来,たやすく耐性や依存が形成されるため,その使用は著しく制限されていた。しかし,臨床面では,がん性疼痛患者へのモルヒネ使用に対しては耐性や依存が形成されたとの報告は殆どない。本研究は,これらの相違を研究する目的で,これまでの動物実験が,臨床的側面を考慮しない正常動物で検討されたものであるとの観点から,疼痛モデル動物をはじめ,より臨床的現状に近い状況下での耐性・依存形成の有無を検討しようとするものである。 本年度は,疼痛刺激の種類によるモルヒネ鎮痛耐性形成の相違について検討した。つまり,がん性疼痛患者でモルヒネ耐性が形成されにくい理由の一つとして,まず,痛みの種類の違いが考えられる。従来の動物実験では,一過性に痛みを与え(テイルピンチ法など),それに対するモルヒネの鎮痛効果を測定していたが,がん性疼痛は持続性の痛みであることから,鎮痛効果の検定法として一過性疼痛とホルマリンによる持続疼痛を取り上げ,モルヒネ耐性形成の痛み刺激の種類による相違を検討した。その結果,モルヒネを1日1回10mg/kgを皮下投与したマウスでは,テイルピンチ法では殆ど鎮痛効果が認められなくなった(耐性形成)のに対し,ホルマリン試験法ではなお十分な鎮痛効果が認められた。このことは,持続疼痛に対するモルヒネの鎮痛作用には耐性が形成されにくいことを示唆しており,臨床上の成績で,がん性疼痛患者に耐性が形成されにくいとの報告を支持するものである。さらに,持続疼痛に対する情動要因の関与を調べる目的で,ホルマリン疼痛に対する抗不安薬ジアゼパムの影響も検討したところ,ホルマリン疼痛反応を減弱することが分かった。この成績は,従来,示唆されてきた慢性疼痛の発現に不安・恐怖などの情動の関与するとの見解を動物実験で直接証明したものである。
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