珪肺症患者における主要な治療薬であるイソニアジドおよびテオフィリンの適正使用に有用なデータ得る目的で検討を行った。今回の検討では、患者のアセチル化代謝(抱合)能を間接的に評価できるN-acetyltransferase2(NAT2*)遺伝子型判定法の確立を行い、日本人健常成人志願者282名においてNAT2*遺伝子型の頻度を検討し、その有用性を確認した。またHPLCによる血漿中および尿中のイソニアジド、テオフィリンおよび代謝物濃度の測定法を確立し、NAT2*遺伝子型の判明している日本人健常成人志願者7名においてイソニアジドとテオフィリンとの薬物相互作用について臨床薬理学的検討を行った。イソニアジドとテオフィリンとの併用投与は、相互に影響を及ぼす可能性が示唆された。珪肺症患者におけるテオフィリンの母集団薬物動態学的解析では、イソニアジド併用投与の患者数が少なかったため、イソニアジドの併用投与はテオフィリンの薬物動態に明らかな影響は認められなかった。しかしながら、珪肺症患者でのテオフィリンの薬物動態については、珪肺症患者でのテオフィリンのクリアランスは健常成人に比べて低下しており、それによって半減期が延長していることが示唆された。このことについては珪肺症患者における薬物相互作用と薬物動態を規定している患者側の遺伝的な因子との疾患感受性をも含めて、その原因を今後、明らかにする必要がある。これらの情報に加えて、今回確立したイソニアジド服薬態度(コンプライアンス)の簡便な確認方法を利用することにより、珪肺症患者におけるイソニアジドとテオフィリンの合理的・科学的な薬物治療(適正使用)の遂行が期待し得るものと思われる。
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