制癌剤シスプラチンとその脂溶性誘導体であるカルボプラチンを用いて、in vitro Caco-2培養細胞系において消化管管腔側(Apical側)から基底膜側(Basolateral側)への両薬物の透過性について調べたところ、シスプラチンの膜透過性は透過係数Pappが0.0042±0.0041 ml/min/cm^2と極めて低い透過性であった。これに対してカルボプラチンの透過係数Pappは0.0077±0.0003 ml/min/cm^2と2倍近い高い値を示した。しかしながら、このような低い透過性の条件においては能動輸送の阻害剤であるKCN、ジニトロフェノールなどの阻害剤を添加して能動輸送特性に関する情報を集めようとしても精度の高い情報を集めることができない。そこでCaco-2培養系細胞の透過実験におよぼす培養条件について基本的な検討を行った。Caco-2細胞を培養する際に用いるプレートとして3日で単層培養が可能だといわれているBIOCOAT^<TM>、および約3週間の培養により安定した単層培養細胞系が調製できるというFALCON^<TM>を用いて比較検討を行った。Coca-2細胞の単層膜の安定性をプレートの抵抗値の測定によって評価したところ、透過実験系に使用可能とされている抵抗値約400〜600Ω・cm^2に到達するのにBIOCOAT^<TM>では、3〜5日で、FALCON^<TM>では20〜21日を要した後、BIOCOAT^<TM>では約2日で、FALCON^<TM>では4〜5日で抵抗値が200〜300Ω・cm^2に低下することが観測された。このことから、いずれのプレートにおいても安定な単層膜の状態を持続させることは容易ではなく、さらに培地などの培養環境についても詳細に検討することが必要と思われた。このようにCaco-2単層細胞培養系においては安定した透過系が作成し難くかつシスプラチンのような高度に極性が高くかつ低分子量化合物についての特性実験を行うには適した実験系でないことがわかった。
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