本研究は、spinorphin(LVVYPWT)が好中球機能を介して抗炎症機構にどのように関与しているかメカニズムを解明することを目的とした。 1.Spinorphinによる好中球機能のプライミング 低濃度(1μM)のspinorphinを前処理した好中球は、炎症刺激剤であるFMLPと反応させると、未処理の細胞と比較して、有意に活性酸素生成能を増強した。この現象は、細胞刺激応答性の指標である細胞質内のカルシウム濃度においても、同様の増強効果が認められた。これは、spinorphin前処理により好中球表層の接着因子であるCD11b/CD18の発現量が有意に増大していることに一部起因していることがわかった。 2.エンケファリン代謝酵素(dipeptidyI peptidaseIII)に及ぼす効果 好中球表層に新たにdipeptidyI peptidaseIII(DPPIII)の存在することを、特異阻害剤および特異基質を用いて同定した。また、同酵素に対する阻害物質として、spinorphinおよびその誘導体を検討して、本物質の16.5倍強力な活性を持つtynorphin(VVYPW)を見いだした。 3.Spinorphinの血中動態の解析 SpinorphinにKLHを結合させた免疫原をウサギに免疫して抗spinorphin抗体を作製した。本抗体が、血中のspinorphinと固相化したBSA-spinorphinとの競争反応を利用した酵素抗体法にて定量化することに成功した。次に、本法を用いて健常人の血清中におけるspinorphinを測定し、平均0.23±0.25pmol/ml血清存在することを見いだした。 以上、spinorphinは炎症細胞である好中球に対して、新たな生理作用であるpriming効果を有することを見いだした。このことは、本物質が炎症時、調節因子として機能している可能性を示唆している。
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