本研究の目的は、動脈硬化に直接関連する酸化などの変成を受けた低比重リポ蛋白(LDL)の血液中での存在を明らかにし、その定量系を確立することである。さらにこの定量系の確立により動脈硬化と関連のある疾患と変性LDLの関連を明らかにし動脈硬化の新しい指標を確立することである。 これまでに確立された変性LDLの一種であるMDA化LDLの測定系の特異性を検討し、測定に利用しているモノクローナル抗体は明らかにMDA化蛋白を認識する抗体であることを確認した。さらに、測定系を検討し、MDA化LDLに特異的な測定系であることを確認した。また、抗体により認識された部位は、LDL-7中のアポリポ蛋白BのMDA化リジン残基であることも確認され、動脈硬化の指標として利用することの妥当性が確認された。 健常者でのMDA化LDLの基準範囲はわずかに男女の性差を認め、かつ加齢とともに上昇する傾向が観察された。しかし、病態の認識には50歳代の健常者の男女共通の値を利用するのが適切と考えられた。 糖尿病などの動脈硬化性疾患を合併する疾患群では、MDA化LDLはこの健常者群の値に比べ有意に上昇していることが観察された。同様な傾向は虚血性心疾患の症例でも観察された。また、MDA化LDLはLDL-コレステロールとも軽度の相関性を示した。さらに興味あることは、血管内血栓症を疑う指標であるD-ダイマーの高値を示す症例でもMDA化LDLは高値を示したことである。今後、これらの点を含め詳細な解析を継続したい。
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