甲状腺腫の発症にサイログロブリン遺伝子異常がどのように病因として関与しているかを研究する目的で、手術組織より抽出したRNAを用いダイレクトシークエンシング法にてサイログロブリンcDNAの塩基配列を決定した。対象とした疾患は先天性甲状腺腫2例、および類縁疾患である異型腺腫様甲状腺腫2例、一般の腺腫様甲状腺腫20例である。先天性甲状腺腫2例と異型腺腫様甲状腺腫2例にはそれぞれT3787CとT5983Aのミスセンス変異を認め、相当するアミノ酸置換はCys1263ArgとCys1995Serであった。血液より抽出したgenomic DNAを用いPCR RFLP法、アレル特異的PCR法にて家系調査を行なったところ、患者はホモ接合体であり、遺伝形式は常染色体性劣性遺伝であった。この変異は今まで報告がなく、正常日本人200人で検討したところアリル発現頻度は0.5%以下で、計算上ホモ接合体の頻度は4万人以上に1人と非常に稀な変異であった。変異蛋白はエンドグリコシダーゼH消化および非変成ポリアクリルアミドゲル電気泳動法にて細胞内輸送が障害されており、小胞体内に停滞していることが確認された。その病態は一種のendoplasmic storage diseaseである。また、GRP94、GRP78、ERp72、hsp72、ERp60、Calreticulin、Protein disulfide isomeraseという分子シャペロンが異常に増加していることも、二次元電気泳動法とウエスタンブロット法にて明かとなった。一般の腺腫様甲状腺腫患者20例のサイログロブリン遺伝子解析の結果は、Pro777Leu、Gly815Arg、Arg987Pro、Gln1425His、Thr1497Met、Ser2574Phe、Asn2615Ileに相当する塩基置換が見つかったが、日本人のアリル発現頻度やサイログロブリン蛋白質の性状について現在解析を進めている。
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