抗腫瘍剤耐性の分子機構の背景にある細胞側因子を知るため、本研究では、株化培養白血病細胞MOLT-3から葉酸拮抗剤trimetrexate(TMQ)に耐性の細胞を作製し、マイクロサテライト不安定性をクローナル解析し、耐性遺伝子変異との関係から、耐性機構における遺伝子不安定性の意義を考察した。 TMQ耐性のMOLT-3細胞を作製する際、ヌクレオチド不均衡をもたらす過剰なチミジン(10μM)供給の有無の耐性機構への影響を調べた。TMQ耐性MOLT-3細胞からメチルセルロース培養にて作製した全ての耐性細胞亜株にジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子のコドン31の点変異(TTC→TCC)が検出された。チミジン供給下に作製した耐性細胞の亜株にのみ多剤耐性遺伝子(MDRI)mRNA発現がみられた。MDR1mRNA発現は、DHFRコドン31の点変異に続いて起こり、両者で異なる発現調節機構が示唆された。 マイクロサテライト反復配列(mfd27、mfd41)のPCR解析から、耐性細胞亜株に遺伝子不安定性の存在と、その多剤耐性成立への関与が示唆された。MDR1を介する耐性は、耐性成立後も流動的で、耐性細胞の選択の原動力として、遺伝子不安定性を背景としてクローン性増殖が示唆された。チミジン供給下に作製したTMQ耐性のMOLT-3細胞にみられる、複数の耐性遺伝子変異、遺伝子不安定性、治療後のクローシ性増殖などの特徴は、臨床でみられる耐性のモデルとなると考えられる。
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