GPI-アンカー型蛋白質はglycosyl phosphatidylinositolを介して細胞膜に結合したユニークな脂質蛋白質群である。近年、これらの蛋白質が、シグナル伝達分子として機能することが明らかにされ注目されている。しかしながらGPI-アンカー蛋白質は細胞膜を貫通しておらず、細胞外からの刺激をどのようにして細胞内に伝えるのか、またどのようなセカンドメッセンジャーを介するのかなど、シグナル伝達のメカニズムはほとんど解明されていない。 本研究では、GPI-アンカー型蛋白質であるCD59をモデルとして、GPI-アンカー型蛋白質のシグナル伝達機構の全容を明らかにすることを目的とした。以下が明らかとなった。 (1)従来の抗体刺激に代わる方法として、ligandによるシグナル伝達測定法を開発した。CD59が補体C9と結合することから、C9のペプチドをligandとして、細胞内Ca2+の上昇を測定する方法を開発した。 (2)CD59は細胞膜上でdimerを形成していることを明らかにした。シグナル伝達に関与する分子として、CD59にassociateしている蛋白質を同定したとこら、CD59分子であることが明らかとなった。この結果は、CD59が細胞膜上でdimerを形成し、このdimer形成がCD59のシグナル伝達に何らかの役割を持つ可能性を示唆する。 (3)CD59とcaveolinを発現する血球細胞を見いだした。GPI-アンカー蛋白質は細胞膜のraftと呼ばれる膜構造に局在することが知られている。カベオラと呼ばれるraft様構造では、種々のシグナル伝達がcaveolinを介することが明らかにされている。そこでCD59のシグナル伝達へのcaveolinの関与について検討した。CD59刺激が認められている血球細胞では培養細胞株、末梢血球細胞でcaveolinの発現は認められなかった。例外として、活性化状態にある成人T細胞白血病(ATL)細胞株で発現が認められた。 今後(1)のペプチドがdimer形成にどのように関わるのか、(3)の陽性株を用いてCD59dimerとcaveolinがCD59刺激にどのように関与するのかを明らかにしたい。
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