事実に基づく臨床検査診断学を実践するためには、信頼にたる十分な疾患別症例データベースを構築することが最重要課題となる。本研究では、主要な37疾患を対象に、その病名を持つ症例の初回入院・未治療時のデータを、1例1例カルテで確認しながら病態情報(臨床所見+検査所見)を収集・記録する作業を精力的に押し進めた。その結果、当初の18疾患627症例を最終的に37疾患1951症例、1疾患当たり53例へと増加させた。その内訳は、急性膵炎、骨髄腫、ネフローゼ、伝染性単核症、骨髄異形成症候群、急性白血病、慢性骨髄性白血病、膵癌、卵巣癌、甲状腺機能低下症、SLE、皮膚筋炎など、いずれも検査診断が臨床的に重要な地位を占める疾患である。また各症例の臨床像(病期、病型、主要症候)も記録しているため、検査診断に関わる知識を様々な角度から生成できる。本研究では、それを実践するための診断支援システムを同時に開発した。その特徴は、疾患別の各臨床所見の頻度、各検査所見(測定値)の散布図を自動的にグラフ化して視覚化でき、しかもそれらの重要度に応じて情報を絞り込めることである。さらに、同じ検査所見を疾患間で比較したり、同じ疾患を任意の条件で層別化し、サブタイプ間で検査所見を比較することもできる。また任意の照会例の臨床または検査所見の組み合わせが、データベース中の特定の疾患群のものとどの程度類似しているかを、対数尤度和を使って動的に計算することも可能とした。一方、施設間差を考慮した数値の自動変換機能を用意し、検査項目ごとに線形変換係数を登録することで、他施設での利用も可能とした。また各疾患に特徴的な所見をイメージとして抽出し、それを同システムとは独立の疾患概要提示システムに現在登録中である。これが完成すれば、データベースを操作することなく、各疾患に固有の臨床像と検査像を一目で把握できるようになる。
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