研究概要 |
本年度は平成10〜11年度の成果を以下のように報告書にまとめた。 (1)看護婦の五感によって観察した情報の言語化に関する実態 看護記録の身体的情報を収集方法により分類し、それらの表現用語の特徴をみた。270回分の看護記録に記載された1,150件の身体的情報は、視覚65.7%、聴覚15.0%、触覚3.6%、嗅覚1.3%、その他複数の感覚による情報14.4%に分類された。視覚情報の特徴は特に色表現にみられ、同じ事実の表現に、(1)色名、(2)色調の明度・彩度、(3)生活用語、(4)造語・病棟独自の記号の4方法が用いられていた。聴覚情報は事実より「良好」「改善」「著明」といった解釈を含む情報として記録されたことが特徴であった。この結果をもとに、観察者の感性を考慮しながら事実を正確に伝達できる色スケール作成、ならびに呼吸音表現の基準化を行い、臨床活用した。 (2)触覚により収集されたデータの情報化プロセス 触覚による情報化の実態をビデオ録画による行動分析と面接法より調査した。1回の検温で身体への接触は13.6±5.1分、11.6±3.1回であったが、観察目的は38.8%であり、その他は無意識、または看護行為の一部と触れていた。また、触診によるデータの記録は2割であり、客観性・精度への疑問から、8割は他の五感情報の補助的データとして活用していることが明らかになった。 (3)表現された視覚・聴覚・触覚情報の特徴と看護経験との関連 記録の表現の実態と看護職経験との関連では、表現量、表現のバリエーションは経験年数とともに増加する傾向があり、豊かな感性とアセスメント能力の向上を示唆したが、その一方では増加した表現が必ずしも表現の客観性、精度に結びつかず、個人の感性に基づき、経験によって学習した表現方法が情報の共有化を妨げる一因になることが明らかになった。
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