訪問看護婦との面接調査の結果、訪問看護において看護婦が裁量権を行使した状況には、患者の基本的ニードが充足されていない、病状が悪化している、苦痛が増強している状況があり、その多くが医師の包括的指示のもとであったことが示唆された。 さらに、無作為に抽出した全国の300ヶ所の訪問看護施設の管理者・看護婦・医師に訪問看護における看護婦の裁量権行使に関する質問紙調査を実施した。この結果、訪問看護婦が医療行為において裁量権を行使した項目は「褥創発見時の処置」「肺理学療法の実施」「機能回復訓練実施」「内服薬の増減」の順に多く、その具体的な内容には「創傷の処置の追加・省略」「機能回復訓練の内容や回数の変更」「膀胱洗浄実施」等が上げられた。訪問看護施設管理者ほぼ全員が訪問看護婦の医療行為における裁量権は必要であると答え、現状の医師の指示については「包括的指示で緊急や患者のニードによって裁量できる」が一番多かった。しかし、訪問看護施設管理者の70%が、医療行為を看護婦の裁量で実施できるとしたら「困る」と答え、その理由には「現在の法制度の問題」「責任が取れない」が多かった。医師対象の調査において、状況や患者の状態に変化があった際、訪問看護婦が「医師の指示を再度受けるべきである」とする割合が高かった医療行為は「服薬管理・指導」「住宅酸素療法管理・指導」「気管カニューレの管理・指導」「経管栄養の実施」の順であった。その理由として「訪問看護婦の実施に責任が負えない」が多かった。これ以外の医療行為(15項目)については、訪問看護婦が「変更・中止しても差し支えない」「患者の状況によっては差し支えない」(両方を合わせるとほとんどの項目が約7割)とする意見が多かった。
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