研究概要 |
新生児期の疾患や呼吸器感染症の有効な予防法や看護法を開発するために以下の研究を行なった。(1)新生児の気道-肺胞系の生理機能や生体防御機能の特徴を解明するために、助産婦が出生直後に採取できる新生児気道吸引液(NAA)中の肺表面活性物質(PS)を分析し、胎生期末期の肺におけるPS合成不全のために発症する新生児呼吸窮迫症候群や呼吸不全の診断が可能であるか否かを検索した。PSは、その最大のアポタンパク質であるSP-Aを帝人の開発した酵素免疫法で測定。健常新生児(I群,20例)と低出生児(II群,20例)におけるNAA中のSP-Aレベルを濃度、総タンパク質に対する比率で比較した。結果、II群のSP-Aレベルの平均値は上記のいずれの方法でもI群のそれより有意(p<0.001)に低値であった。これらの診断はNAAの分析が新生児の呼吸不全の病態の解析に有用であることが示唆されたが、NAAの新生児の呼吸不全の臨床診断における有用性は、さらに検討を要する課題である。(2)胎児・新生児の気道-肺胞系の病変の診断および新生児と成人の気道-肺胞系の生体防御機能の差異の解明などを目的に、NAA中の局所産生防御成分である分泌型IgAを、健常成人の気道洗浄液(BLF)を対照として分析した。その結果、NAAにおける分泌型IgA濃度は3.07μg/mlで総タンパク(TP)濃度の約0.07%であった。NAAとBLFをS-IgAのTPに対する比率(S-IgA/TP,mg/mg)で比較した。NAAはBLF値の約1/5のレベルであった。これらの成績からNAAが成人と新生児の気道-肺胞系の生理機能や生体防御機能の差異の解明などに利用できる検体であると考えられた。今後、新生児の粘膜系の感染防御能の特徴を、新生児のNAAと唾液および母親の初乳中における分泌型IgA、ラクトフェリンなどの液性生体防御成分を比較分析することに解明し、母児間の生体防御の関連性についても検討する予定である。検体の採取を続行する。
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