骨髄移植を受ける小児患者とその家族がその治療決定を行なうにあたり影響を及ぼす要因について研究を行なった。平成10年度は、小児がんや代謝性疾患、血液疾患などで医師から説明を受ける場に了解を得て立会い、内容をテープ録音し、医師と家族の間でどのようなやりとりが行なわれているのかを調査した。調査件数は24件であるが、内容は、病状の説明が中心であった。その後も平成11年、12年と骨髄移植を受ける目的で受診した家族が医師から説明を受ける場面に同席し、了解が得られた家族に面接を行なったが、もともと事例が少なく、また、了解が得られた家族も子どもの病状が急変したり、死亡したりと面接まで至らない事例も多かった。骨髄移植を受けた小児の家族(母親)に面接を行なうことができた事例は5例であった。その内、1事例については骨髄移植後3年間にわたり、継続的に6回の面接を行い、家族が骨髄移植を決断した経緯、その後の心境の変化について明らかにすることができた。この事例は代謝性疾患で進行性であり予後も悪く、2歳で発症してから急激に進行する病状に家族が耐えられず骨髄移植を受けることを決めたもので、治療決定にあたっては、医師に対する信頼、病状の悪化、母子の一体化が起こっており、母親が現状に耐えられず決断していた。この決定には、父親、母親の妹、骨髄移植を受けた子どもの姉などが影響を与えていた。結果的に、骨髄移植後、生着せず、さまざまな合併症により死亡するが、その後の振り返りの中でも治療を決定した時の心境、亡くなった後の思いの変化が明らかになった。他の家族とは1回だけの面接であり、十分な分析が行なえなかった。小児に対する骨髄移植はもともと事例が少ない上、治療過程で急変や死亡に至る例もあり、家族との面接から治療決定の要因を明らかにするには時間的制約が大きく、検証が難しい。
|