本研究は1970年代以降の英米系を中心とした科学社会学派の歴史的な研究を主軸とする。科学社会学は1970年代以降、いわゆるコロンビア学派として知られていたロバート・マートンを中心とした外在的な科学社会学的研究、つまり研究者の報償体系の分析や制度的分析、ピアレヴューなどのシステム分析などという話題を中心とするものから、大きく内容を変えて展開を遂げた。それは一言でいうなら、従来の外在的な社会学的研究から、より一歩踏み込み、実際の科学理論が社会的文脈や文化的文脈に影響を受けて、その内容自身にまで変化をこうむるという可能性に着目し、後は個別事例に即して、いったいどのような社会外圧のもとで特定の科学理論が構成されていくのかを調べる、いわゆる「科学知識の社会学」(SSK)の展開をみた。それはその後、より広範な社会的文脈のなかでの科学理論の位置付けをめぐる「科学・技術・社会論」(STS)にさらなる発展をとげて現在に至っている。 研究初年度の本年は、以上のような背景のなかで、現代科学論が必然的に科学理論内部にまで踏み込んだ分析を行い、それによって従来の科学者にとっては古典的な発想である実在論や実証主義さえも否定するような流れがあるという事実をまずは確認した。そしてそれに対する科学者の側からの激しい反発(サイエンス・ウォーズ)を詳しく分析した。また現代科学のなかで社会的、経済的にだけでなく、知識論一般からみて極めて興味深い事例として分子生物学をとりあげ、特にその組換えDNA技術の規制をめぐる史的分析をした。初年度の作業としてはかなり順調な仕上がりを実現をすることができたと思う。
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