本研究は1970年以降の英米系を中心とした科学社会学派の歴史的な研究を主軸とする。科学社会学は1970年代以降、いわゆるコロンビア学派として知られていたロバート マートンを中心とした外在的な科学社会学的研究、つまり研究者の報償体系の分析や制度的分析、ピアレビュ―などのシステム分析などという話題を中心とするものから、大きくないようを変えた展開を遂げた。一言でいうなら、それは従来の外在的な社会学的研究から、より―歩踏み込んで、実際の科学理論が社会的文脈や文化的文脈に影響を受けて、その内容自身にまで変化を被るという可能性に着目し、個別事例に即しながら、どのような社会外圧の下で特定の科学理論が構成されていくかを調べる流れを主とするものになった。 それは普通、「科学知識の社会学](SSK)といわれ、80年代に最盛期を迎えた。ただしSSKは90年代に入ると若干停滞し、現在徐々に撤退しつつある。その代わりに「科学・技術・社会論」(STS)という潮流が台頭しつつある。 本年度は上記の基本的認識にたち、そのなかでも特に二つのテーマに的を絞った研究をした。まずは、単なる科学的認識だげでは覆い尽くせない環境問題一般をめぐる、社会学的、政治学的な問題の分析。その際特に80年代アメリカで激しい活動を展開したラディカル派環境アクティヴィズムの一種、アースファーストの活動をめぐる詳細な分析をした。次に現代医療がはらむ暗黙の政治性を、産婦人科学という科学のなかに剔抉することを試みる、一種の「身体の政治学]論。その両者ともに巨大な問題系であるだけに本年度の成果は起動的なものにすぎないが、今後一層その深化をはかるつもりである。
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