本研究は1970年代以降の科学社会学、科学哲学、科学史を総合した「科学論」の展開を通覧することを試みた。特に社会構成主義という立場を視座にして、ここ30年ほどの英米圏を中心にした科学論史を鳥瞰した。その過程で、より細かい概念として、SSKとか、STSといった領域群を特定し、その成立過程や領域の特徴を探った。1980年代にその最盛期を迎えたSSKは激しい科学批判を展開し、認識論的にもかなり極端な相対主義を顕揚した運動だった。それは、80年代当時としてはポストモダニズムなどの背景とも絡み合い、一定の歴史的役割を果たした。だが、その極端な相対主義は、科学批判を単なる蒙昧主義的な反科学と混同せしめるという負の帰結も生んだ。そのため1990年代には科学者陣営から激しい反発を招き、それは1994年頃から数年間にわたって、特にアメリカで「サイエンス・ウォーズ」という、極めて激しい論争となって奔出した。本研究では、その論争をその理論的背景ともども詳しく分析することが出来た。その最大の成果が拙著『サイエンス・ウォーズ』である。なお、その後、科学論は自らの反省を深め、現在、理論的にはやや停滞期にある。だが、地球温暖化、GMO、原発、エイズなど、科学技術に関連してそこからでてくる社会問題は今度ますます重要性を増していく、というのは、あまりに明らかである。科学論は、単純な相対主義的言辞を弄してそれで自己満足するというのではなく、科学と社会との新たな関係を模索しながら、自分の理論装置を錬磨していく必要がある。本研究では、ここ30年あまりの歴史的地図を描くことで、その理論的趨勢の歴史的必然性を浮き彫りにすることが出来た、と自負している。
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