本研究はデュアルユーステクノロジーの軍事転用の典型である生物兵器および化学兵器、各々の禁止条約成立の経過を、実際の科学技術の面から明らかにすることを目的として始められた。すなわち科学技術の面から条約の成立やその実効性の追求のプロセスを明らかにし、それによって、民需と軍需の境界が不明確となりつつある現代の技術の軍事転用、あるいは誤用を防ぐ方策を提案することを目指していた。 そのような観点からは、2000年末から01年にかけて、日本で旧日本軍のクシャミ剤と呼ばれるジフェニルシアンアルシンの処理が国内で行われたことが重要である。この件について申請者は、近日刊行が予定されている'Disabling Chemical Weapons'(Macmillan)の一章'Japan:Prospects for the Disabling and Other Chemical Weapons abandoned in China'としてまとめている。この問題はCWC(化学兵器禁止条約)の規定していない、いわば軍需と民需の狭間である、グレーゾーンの化学物質についてより厳格に見ていこうというひとつの流れを生み出す可能性がある。その意味で化学兵器軍縮の充実にとって重要な一歩である。 その一方で、BWC(生物兵器禁止条約)の強化のための、特に製薬企業の研究開発とBWとの関連を整理することをもくろんだ話し合いは進んでいない。これは、先端的研究の知的所有権の問題をどのように保護するかという方策が、企業にとって心もとなく映ることによる。この問題は、CWにもかかわる問題であり、研究開発者がその成果を十分確保できる情報公開の方法を今後構築する必要がある。これは、単にBCWに限らず、ヒトゲノム解析その他の先端科学の定着にとっても重要なことだと考えている。
|