研究概要 |
平成10年度は、まず研究の素材の人手と,江戸時代後期に受容した学術書の背景となる18・19世紀のヨーロッパの医学・自然科学の学界の実態の把握に努めた. 研究の素材の入手のため、江戸時代後期の蘭学系の医学・自然科学書を蔵している大阪市の杏雨書屋、岡山大学医学部図書館、高梁市仲田家旧蔵書などの現地調査を行ない,検討の対象となる蘭学書の日本語翻訳書(刊本、写本)あるいはオランダ語原書の複写を行なった.そして原著者の履歴の解明に努めると共に、原著の書名、序文の内容などから、原著者が想定した読者層を推察する作業を開始した. 次いで、自費あるいは他からの費用でヨーロッパへ渡航した際に、18・19世紀のヨーロッパの医学・自然科学界の学問的水準、学界の社会的な位置付けの調査を行なった.当時、内科医と外科医、またはクワック(Quack、権力から免許を得ず、巡回して医療行為を行った)などと、社会の中で複雑に分化していた医療職の内で、日本が江戸期に受容した医学・自然科学は、ギルドを形成した職人としての外科医系のものであったことが、筆者の今までの研究で明らかになりつつあるが,18・19世紀のヨーロッパの外科医界を,史料に基ずき検討して、「オランダにおけるギルドを形成した外科医の医療職としての確立」として発表し、ギルド外科医界を描出した.また、「スペインの古い病院と大学の旅」で、前期近代期のヨーロッパの病院は専門的な医療機関とは言えず,教会に付設された慈善機関であった実態については説明した.蘭学を受け入れた日本側の学者としては、何名かの検討を行なった.その一部を「緒方洪庵とロイトル」として発表し、彼らの学歴・業績から、彼らが日本に紹介した蘭学のヨーロッパにおける位置付けについて検討した.
|