今年度は、高強度の伸張―短縮サイクル運動が着地動作を伴う伸張―短縮サイクル運動を行う際の動作のプリプログラミングに及ぼす影響について実験を行った。被験者は、前年度と同様に伸張―短縮サイクル運動を疲労困憊まで実施し、筋肉の生化学的、生理学的および機械的変化について分析した。分析の結果、伸張―短縮サイクル運動による疲労の度合いの大きい被験者は、2時間後に一旦回復傾向を示すものの、その後の筋損傷の度合いが大きく、2日後にさらにパフォーマンスが低下していた。したがって、高強度の伸張―短縮サイクル運動は運動直後の急性的な疲労と運動2-3日後におこる遅発的な疲労の2段階にわたる疲労パターンを生じさせる事が明らかになった。さらにパフォーマンスの低下はstiffnessの低下と関係しており、筋の粘弾性の低下が筋損傷と関連していることが示唆された。次に、動作のプリプログラミングについては、運動2時間後から2日後にかけてパフォーマンスの低下の度合いが大きい被験者は、stiffnessの低下の度合いが大きく、さらに着地前の準備動作が大きく変化していた。具体的には、着地前の準備動作で膝関節の伸展の度合いが大きい被験者は、着地直後のstiffnessの低下が大きく、それによってパフォーマンスが低下していると考えられる。さらに運動2時間後から2日後にかけては、筋損傷の増加と着地前の筋放電量の低下が同時に生じていた。それゆえ、遅発性の筋損傷に伴う筋肉痛と関連した求心性の神経刺激が跳躍運動のプリプログラミングに影響を及ぼし、最終的にパフォーマンスを低下させたものと考えられる。興味深いことに、疲労によって生じたこのような準備動作(プリプログラミング)の変化は、疲労前の測定で見られたパフォーマンスの低い被験者のパターンと類似していた。したがって、高強度の伸張―短縮サイクル運動による動作の変化パターンは、パフォーマンスが高いものから低いものへと変化することが明らかとなった。
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