平成10年度、11年度の研究において、巧みな動きを習得する上で、身体練習を行える場合には観察学習は効果なストラテジーでないことが明らかにされた。観察学習が有効でなかった理由として、提示するモデルの技能レベルが学習者に比べて高すぎたために、有効な情報を得ることができなかったことが考えられる。また、観察学習を身体練習に挿入するスケジュールについても、身体練習と観察学習を交互に見せることによって、視覚的イメージと運動感覚的イメージ間で混乱が生じさせた可能性も考えられる。そこで、平成12年度の研究においては、観察学習におけるモデルの技能レベルと提示スケジュールの効果について検討した。モデルとしては、熟練者の動きを見せる熟練モデルと、初心者が動きを学習していくプロセスを見せる学習モデルの2つを用いた。提示スケジュールとしては、身体練習前に一括してみせる集中提示と、身体練習と観察学習を交互に行う交互提示の2つを用いた。したがって、熟練モデルを集中して観察する熟練集中群、熟練モデルを交互に観察する熟練交互群、学習モデルを集中して観察する学習集中群、学習モデルを交互に観察する学習交互群、および、観察学習を行わず身体練習のみを行う身体練習群の5群を比較した。その結果、学習過程のパフォーマンスにおいても、1週間後の保持テストにおいても、学習集中群が、熟練集中群、熟練交互群、及び、身体練習群よりも有意に優れていた。他には、いずれの群間にも有意な差はみられなかった。このことから、学習モデルを集中して観察することが、学習中のパフォーマンスを高めるだけではなく、持続的な学習効果を高めるうえでも、有効なストラテジーであることが示された。
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